患者等搬送事業者に依頼する前に確認しておきたいチェックリスト(医療的ケア搬送版)

― 退院・転院・外出時に「移動中のケア」を途切れさせないために ―

患者等搬送事業者(一般に「民間救急」と呼ばれる)は、緊急性の高い救急搬送(119)とは異なり、緊急性は高くないが医療的配慮を要する移動を、計画的に実施するための制度です。

ただし、患者等搬送事業者であっても、乗務員体制(看護師同乗の可否、救急救命士同乗の可否)や搭載資器材(酸素、吸引器、モニター等)、運用基準には差があります。
医療的ケアを伴う搬送では、依頼側が必要情報を整理し、事業者と共有することが、搬送中の安全管理に直結します。

本記事では、医療的ケアを伴う搬送(退院・転院・外泊・通院・外出同行など)を想定し、依頼時に確認すべき事項をチェックリスト形式で整理します。


なぜ「チェックリスト」が必要なのか(リスクと安全管理)

医療的ケアを伴う搬送では、単なる移動ではなく、移動中も観察(モニタリング)と必要な介入(ケア)を継続する必要があります。

一般論として、搬送中には以下のようなリスクが想定されます。

  • 喀痰貯留により吸引(口腔・咽頭・気管内)が必要になる
  • 呼吸状態の変化や分泌物で SpO₂低下(低酸素血症)が起こり得る
  • 酸素ボンベ残量(残圧)管理が不十分だと途中で供給不足になる
  • 体動・移乗で 鼻カニューレ/気管切開カニューレ/回路の抜去・逸脱が起こり得る
  • 長距離搬送で同一体位が続き、褥瘡リスクや換気・循環への影響が出る可能性がある
  • 人工呼吸器使用時は、アラーム対応(回路外れ、リーク、電源・バッテリー、加温加湿など)を要することがある

これらは必ず起こるものではありませんが、起こり得る前提で準備と体制設計を行うことで、リスクを下げることができます。


チェックリスト①【搬送の基本情報(ロジ)】

  • 搬送目的:退院/転院/受診/外泊・外出/冠婚葬祭 等
  • 出発地・目的地:施設名、病棟、階数、病室、搬送導線(EV有無、段差、狭隘部)
  • 希望日時・所要時間見込み(長距離の場合は休憩計画)
  • 搬送形態:車いす/リクライニング車いす/ストレッチャー
  • 付き添い:家族同乗の有無、医療職同乗の有無
  • 受入側の受け渡し方法:病棟引継ぎ、救急外来受入、時間指定の可否

チェックリスト②【傷病・状態(アセスメント情報)】

※「診断名」そのものより、現在の状態とリスクが重要です。

  • 意識レベル(JCS/GCS)
  • バイタル:BP/HR/RR/SpO₂/体温(直近の値と“変動しやすさ”)
  • 呼吸状態:分泌物の量・性状、咳嗽力
  • 体位制限:半坐位、セミファーラー位、側臥位など
  • 疼痛・鎮静:疼痛コントロール状況、鎮静薬使用の有無、持続点滴など
  • 既往:てんかん発作、低血糖、起立性低血圧など(搬送中リスクになり得るもの)

チェックリスト③【酸素療法・吸引・気道管理】

  • 酸素療法:実施の有無、デバイス(鼻カニューレ/マスク等)、流量(L/min)、目標SpO₂
  • 酸素供給:事業者積載か、医療機関・家族持参か、予備ボンベの考え方
  • 吸引:必要の有無、頻度、気管内吸引の有無(気切・人工呼吸器含む)
  • 気管切開:カニューレの種類、固定状態、予備カニューレの有無

チェックリスト④【人工呼吸器・NPPV・医療機器】

  • 呼吸管理:人工呼吸器/NPPV
  • 機種・設定(可能な範囲で):モード、FiO₂、PEEP等
  • 電源:バッテリー駆動時間、外部電源(インバーター等)の可否、予備電源
  • 回路:加温加湿(HME/加温加湿器)、結露対策
  • アラーム時の対応方針:回路外れ、リーク、換気不良 等
  • モニタリング:SpO₂、心電図、血圧などの必要性(生体モニター要否)
  • 緊急時の対応:バックバルブマスクやアンビューバックの準備

チェックリスト⑤【ADL・褥瘡・体位変換(長距離対応)】

  • 体位変換の必要性:何分ごと、疼痛や拘縮の有無
  • 褥瘡リスク:好発部位、エアマット・クッションの使用
  • 排泄:尿道カテ/オムツ/ストマ、途中対応の要否
  • 嘔吐リスク:誤嚥リスク、吸引準備、体位
  • 休憩計画:長距離時の停車ポイント、ケア実施タイミング

チェックリスト⑥【同乗体制・対応範囲(最重要)】

依頼時には、**「誰が同乗し、何ができるか」**を明確にします。

  • 看護師同乗の可否
    • 吸引、酸素管理、体位調整、状態観察などの医療処置の継続が可能か
  • 救急救命士同乗の可否
    • 搬送中の急変時に、状況に応じた応急処置(一次対応)が可能な体制か
  • 急変時の対応
    • 必要に応じて119番要請を行う運用になっているか。医療機関との連携が図れているか。
  • 搭載資器材
    • 酸素、吸引器、AED、バッグバルブマスク(BVM)、モニター等の有無

依頼時に「伝えるほど安全になる」

医療的ケア搬送では、遠慮して情報を省くほど、想定外が増えます。
「伝えすぎかな?」と思う情報こそ、搬送の安全性を高める材料になります。


おわりに

患者等搬送事業者制度は、緊急性のない計画搬送を支える重要な仕組みです。
その制度を適切に活用するためには、依頼側の情報整理(アセスメント)と、事業者側の体制確認(人員・機材・運用)が欠かせません。

本記事のチェックリストが、安全で安心な搬送につながる一助となれば幸いです。

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