救急車と患者等搬送事業者(民間救急)は、どのように使い分けるのか
近年、「民間救急車」という言葉を耳にする機会が増えています。
一方で、「救急車と何が違うのか」「どのような制度に基づいているのか」といった点については、十分に理解されていないのが現状です。
自治体消防の説明では、いわゆる「民間救急」は**「患者等搬送事業」と呼ばれ、その担い手が「患者等搬送事業者」**です。
本記事では、救急車(119)と患者等搬送事業者(民間救急)について、どのような考え方で使い分けるのかを整理します。
使い分けの基本となる考え方
救急車と患者等搬送事業者を使い分ける際の最も重要な視点は、
**「緊急性があるかどうか」**です。
ここでいう緊急性とは、
・生命の危険が切迫している可能性がある
・今すぐ医療的な処置や判断が必要
・症状が急激に悪化している
といった状況を指します。
このような場合には、迷わず119番通報を行い、救急車を要請することが基本です。
救急車(119)が想定される場面
救急車は、公的な救急業務として、
・急病や重い外傷
・意識障害、呼吸困難、強い胸痛
・突然の症状悪化
など、緊急性が高いと考えられる場面で出動します。
通報時点で緊急性の判断が難しい場合であっても、
「緊急かもしれない」と感じた場合には、救急車を要請することが優先されます。
患者等搬送事業者(民間救急)が想定される場面
一方、患者等搬送事業者は、
緊急性は高くないものの、医療的配慮が必要な移動を想定した制度です。
一般的には、次のようなケースが考えられます。
・退院や転院など、あらかじめ予定された搬送
・通院が必要だが、自力での移動が困難な場合
・医療機器(酸素等)への配慮が必要な移動
・外出や社会参加に伴う計画的な移動
これらはいずれも、
事前に状況を把握し、計画的に対応できる移動である点が共通しています。
「迷ったとき」はどうすればよいか
実際の場面では、
「これは救急車を呼ぶべきか」「民間救急に相談してよいのか」
と迷うこともあります。
そのような場合の基本的な考え方は次の通りです。
・急変の可能性がある、または判断に不安がある場合は119番通報を優先する
・緊急性の判断に迷う場合には、救急相談窓口(#7119)に相談するという選択肢もある
・患者等搬送事業者は、119番通報や#7119の代わりに緊急性の判断を行う仕組みではない
・移動中に容態が急変した場合は、救急車を要請することが前提となっている
#7119に相談した結果「救急車は不要」と案内されたが、搬送手段がない場合
救急相談窓口(#7119)などに相談し、緊急性が高くないと案内された場合でも、
実際には「自力で移動できない」「家族の付き添いが難しい」「車いすで一般車両に乗れない」などの理由で、搬送手段が確保できないことがあります。
そのようなケースでは、状況に応じて、患者等搬送事業者(民間救急)を含む搬送手段を検討することが考えられます。
※なお、症状が変化したり、急変の可能性があると感じた場合は、ためらわず119番通報を優先してください。
緊急を要さない転院搬送(計画的な転院)
転院が必要であっても、救急車を要請するほどの緊急性がない場合には、
医療機関の指示や関係者との調整のもと、計画的な転院搬送が選択肢となることがあります。
医療処置を伴う退院・一時外泊など
退院や一時外泊の移動では、緊急性は高くない一方で、
在宅酸素・吸引・モニター管理など、医療的配慮(医療処置の継続)が必要になる場合があります。
このような「緊急ではないが医療的安全を確保したい移動」は、
患者等搬送事業者(一般に「民間救急」と呼ばれる)が担うことが考えられます。
ただし、患者等搬送事業者といっても 対応体制や積載機材には差があり、
酸素対応の可否、吸引器や生体モニターの有無、看護師同乗の有無などは、事業者によって異なります。
そのため、医療的ケアが必要な場合には、
事前に必要な処置内容や機器、同乗体制について確認し、対応可能な事業者を選択することが重要です。
なお、事業者ごとの体制や対応範囲の違い、依頼時に確認すべきポイントについては、別の記事で詳しく解説する予定です。
制度として想定されている理想的な役割分担
救急車と患者等搬送事業者は、競合する存在ではありません。
・救急車:緊急性の高い傷病者への迅速な対応
・患者等搬送事業者:緊急性のない計画的な搬送への対応
それぞれが役割を分担することで、
救急医療体制全体が安定的に機能することが期待されていると考えられます。
おわりに
救急車と患者等搬送事業者の使い分けは、
「どちらが優れているか」という問題ではありません。
状況に応じて、適切な手段を選択することが重要です。
制度を正しく理解することは、
救急車を本当に必要とする人を守ることにつながり、
同時に、移動に困難を抱える人の選択肢を広げることにもつながります。