令和8年熊本地震から見えた災害時の搬送支援の課題
~現地での情報収集と行政との連携を通して~
令和8年7月28日に発生した熊本地震により、お亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
眞心ライドでは、災害時に医療的ケアが必要な方や移動に配慮が必要な方の搬送支援を行う事業者として、発災直後から情報収集を開始しました。
現地に近い場所で待機しながら行政との情報共有を行い、災害発生から時間の経過とともに変化する搬送ニーズや、民間事業者が活動する上での課題を知ることができました。
今回の活動経過と、現地で得た学びについてご報告します。
活動記録
7月28日 16 時27 分 発災
熊本県で大規模な地震が発生しました。
眞心ライドでは直ちに被害状況や行政から発表される情報の収集を開始しました。
発災直後は消防・警察・自衛隊・DMATなどによる人命救助活動が最優先となります。
そのため、現地へ向かうことを目的とするのではなく、「本当に必要とされるタイミングで活動する」ことを基本方針としました。
7月29日 出動準備
災害対応に備え、勤務調整(調整いただき感謝します)を開始しました。
また、
- 滋賀県への情報提供依頼
- 社会福祉協議会でのボランティア保険加入
- 災害ボランティアセンター設置状況の確認
など、活動開始に必要となる準備を進めました。
7月30日 被災地へ向け出発
勤務調整や移動経路、宿営地の目途が整ったため、滋賀県彦根市を出発しました。
熊本県に隣接する福岡県大牟田市まで移動し、車中泊を行いました。
今回の活動では、被災地の宿泊施設や物資を利用しないよう、クラウドファンディングなどを通じて整備した車中泊用品や備蓄品を活用し、自己完結型で活動しました。
また、宇城市障害福祉課へ連絡し、眞心ライドが搬送支援を行えることを情報提供しました。
この時点では具体的な搬送要請はなく、被災地へ無理に入ることはせず、人命救助活動を最優先と考え、現地に近い場所で待機しながら情報収集を続けました。
7月31日 発災から72時間
熊本県災害対策本部会議の内容を確認しました。
医療機関だけでなく、高齢者施設や障害福祉施設でも停電や断水、建物被害が多数発生していることが報告されており、搬送ニーズが今後変化していくことが予想されました。
また、宇土市・宇城市・八代市では、避難所からホテル等への宿泊支援事業が開始されることも発表されました。
宇城市障害福祉課へ状況を確認したところ、この時点ではホテルへの移送予定はないとのことでした。
さらに、熊本市西区に住む親戚宅を訪問しました。
電気や水道は利用できていましたが、近隣のスーパーでは営業していない店舗もあり、食料品の確保に苦労している状況でした。
一方で、営業を再開する店舗も徐々に増え、復旧に向けた動きも感じられました。
避難所では支援物資の配布が行われていますが、在宅で避難生活を送る高齢者などには、情報や支援が十分に届きにくい可能性があることも実感しました。
8月1日 搬送ニーズの発生
熊本県災害対策本部会議では、高齢者施設や障害福祉施設の支援が継続して行われていることが報告されました。
また、宇城市障害福祉課からは、
- 避難所から医療機関への受診
- ホテルへの移動
- 自宅への帰宅
などの搬送ニーズが発生していることを伺いました。
21時30分頃、宇城市障害福祉課から避難所から医療機関への搬送について連絡をいただきました。
しかし、その時点では既に滋賀県へ向け帰路についていたため、対応することはできませんでした。
今回の活動では実際の搬送は実施できませんでしたが、行政へ事前に支援可能であることを伝えていたことで、実際の相談につながったことは大きな経験となりました。
8月2日 滋賀県へ帰着
無事に滋賀県へ帰着しました。
今回の活動を振り返り、得られた経験や課題を整理するとともに、今後の災害対応体制へ活かすため活動記録の作成を開始しました。
今回の活動から見えた課題
災害フェーズによって搬送ニーズは変化する
今回の活動を通じて、搬送ニーズは災害の経過とともに変化することを実感しました。
超急性期(発災〜約72時間)
消防・警察・自衛隊・DMAT等による人命救助活動が最優先となります。
熊本市内の民間救急事業者に3社に確認したところ、いずれも病院間搬送業務の対応をしたとのことでした。
急性期(約3日〜1週間)
避難所から医療機関への受診搬送、
避難所から福祉避難所やホテルへの移動、
自宅への帰宅など、
生活を支えるための搬送ニーズが徐々に増えてきます。
今回、宇城市から搬送について相談をいただいたのも、この時期でした。
亜急性期(約1週間〜1か月)
避難生活が長期化すると、
通院、施設利用、転居、一時帰宅など、
生活再建に向けた移動支援が中心になると考えています。
これは今回の経験を踏まえた、現時点での眞心ライドの整理です。

平時からの関係づくりが何より重要
今回、強く感じたことがあります。
それは、
「災害時に初めて連絡する事業者には、行政も依頼しにくい」
ということです。
行政が被災者へ民間事業者を紹介するためには、
どこの会社なのか
どのような搬送ができるのか
どのような資格や資機材を持っているのか
こうした情報を平時から把握している必要があります。
だからこそ、
災害が起きてからではなく、
平時から行政や医療・福祉関係者との関係づくりを進め、
顔の見える関係を築いておくことが重要であると実感しました。
今回の活動を通して
今回の活動を通じて、災害時の搬送ニーズは時間の経過とともに変化し、それに応じて求められる搬送体制も変わることを実感しました。
また、災害時に迅速かつ安全な搬送を行うためには、資機材や車両の整備だけでなく、平時から行政や医療・福祉関係者との連携を深め、「顔の見える関係」を築いておくことの重要性を改めて認識しました。
さらに、全国には一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送限定)など、国土交通省(運輸局)の許可を受けた搬送事業者が数多く存在しています。それぞれが地域で培った搬送技術や経験を有しており、災害時には地域の実情に応じた支援を担える可能性があります。
現在、国土交通省ではTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)の予備隊員制度を創設し、民間企業等の専門人材を活用した支援体制の強化が進められています。
この制度が、災害時に発生する搬送ニーズと、全国の許可搬送事業者を適切にマッチングし、必要な地域へ迅速に支援をつなぐ仕組みへと発展することを期待しています。
眞心ライドも今回得られた経験を活かし、平時から資機材の整備や訓練、行政・関係機関との連携を積み重ね、災害時に必要とされる搬送支援を安全かつ確実に提供できるよう努めてまいります。
今回の経験は、眞心ライドだけでなく、全国の搬送事業者が災害時にどのような役割を担うことができるのかを考える貴重な機会となりました。今後も関係機関と連携しながら、災害時の搬送支援のあり方について学びを深め、その知見を発信していきたいと考えています。
おわりに
今回の活動では、クラウドファンディングを通じて整備した備蓄品や車中泊用品などを活用し、被災地に負担をかけることなく活動することができました。
ご支援いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。
今回の経験を通じて、災害時の搬送ニーズは時間の経過とともに変化し、それに応じた準備や体制づくりが必要であることを改めて実感しました。
災害はいつ発生するか分かりません。
だからこそ、「備え」は災害が起きてから始めるものではなく、平時から積み重ねていくものだと考えています。
眞心ライドはこれからも、日頃の医療ケア搬送や訓練を通じて知識・技術・経験を積み重ね、必要とされるその時に迅速かつ安全に対応できる体制づくりを続けてまいります。
そして、今回得られた経験や課題を次の災害対応へ活かし、一人でも多くの方が安心して必要な場所へ移動できる社会の実現に向け、これからも取り組んでまいります。
※本記事は令和8年8月2日時点の活動記録です。今後、新たな情報や知見が得られた際には、内容を追記・更新する場合があります。